907.培養バーガー(2019.2.18掲載)
日経サイエンス誌の特集で、「5年後の世界を変える10の科学技術」という記事があった。 そこで、AI、AR、製薬や遺伝子操作技術に加えて唯一食品ネタとして取り上げられていたのが「培養肉」。 最近、ベンチャー企業のモサミート社がビル・ゲイツ氏やカーギル社などから1700万ドルの資金を調達した培養肉ビジネス。製造理論は、家畜から採取した胚性幹細胞(ES細胞)を増殖させた後、筋線維に分化させ筋肉組織を作り出すというシンプルなもの。 1頭のウシから取った組織試料から、ハンバーガー8万個分の牛肉ができるらしいが、問題はコストと味である。 2013年に報道陣に公開された時はハンバーガー1個30万ドルで激マズ。 2018年にはなんとか食べられる味になったが1個600ドル。 2023年のレベルやいかに。 もちろん、味と価格がよくても安全性や規制の問題が残されている。当然ながら、在来の食肉生産者は「培養肉は通常の食肉とは全くの別物であって食肉と表示すべきではない」と反発している。 一般消費者の関心も低いが、そもそも培養肉研究の第一人者であるオランダ人ファン・エーレン博士は、飢饉や飢餓を回避する食糧問題解決策としてこの研究をスタートさせた。 大戦下のインドネシア。日本軍捕虜収容所で強制労働に従事させられていた博士は、当時の空腹をこう振り返る。 「間抜けな野犬が鉄条網を越えて入ってこようものなら、捕虜たちはとびかかって犬を引き裂き、生で食べたものだ」 この飢えが起点の研究なのだ。 高度文明は決して永遠ではなく、飽食の時代もまた然り。戦争同様、飢餓の経験者が居なくなると、また飢餓の時代が来るに違いない。 商品裏面の一括表示に「培養肉」と書かれる日も近いのかもしれない。
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