908.涙の塩カド(2019.2.25掲載)
ある会合で40年ぶりに同級生に会った。くそヤンキーだったのに、心も体もカドが取れて丸くなっていた。 人生経験で人間力を高めて中身を濃くしつつ、いろいろなところにぶつかって無理やりカドを削った印象だった。もちろん、体重の増加で物質的なカドも取れていたが…。 中身を濃くしたり、カドを削ったりという精神的に丸くなるパターンは、醤油の塩カドが取れる現象に似ている。 当時、まだカドの取れてなかった小僧たちが集まり、補習をさぼって泳いだキラキラ光る海の塩分は3%。そして、その話で盛り上がる酒席のテーブルには塩分15%の醤油。 ここで、塩分が低い海水の方が塩辛く感じるのはなぜか。それは、醤油には旨味成分が入っているから。海水中にはほとんど存在しないグルタミン酸などの旨味成分には、塩カドを取る働きがある。つまり、中身(旨味)が濃いと、カドも取れるということ。 一方、カドが削られる現象は熟成。 醤油を何ヶ月か寝かせてやると、熟成されてまろやかな味になる。これは、寝かせている間に食塩が水分子に取り囲まれて影が薄くなり、口の中でストレートに舌に届かなくなるため。カドが削られたというより、カドを隠されたと言った方が正しいかもしれない。 何かにぶつけてカドを削るような荒療治より、時間をかけて、じっくりとカドを隠す醤油の熟成の方が無理がない。 ただ、熟成して丸い人間になった時、人は熟年と呼ばれてしまう年齢になっているのがちょっと悲しい。 まぁ、それならそれでゆるくなった涙腺に手をやりながら旧友と酒を酌み交わせばいい。 涙の塩カドも、きっといい思い出になると思う。
\\\\
|
column menu
|