936.路地裏(2019.9.16掲載)
見知らぬ町の薄暗い路地裏で迷子になってみたい…。 なぜかそんな変態願望が頭から離れない。もしかして、幼時ほんとに路地裏で迷子になったことがあったのか、はたまた出自がそこにあったのか。 昭和40年代。秋の夕暮れは今よりも速く、暗闇はどこまでも怖かった。少年は野球帽を握りしめ、家路を駆けた。 こんな遠い日に回帰できる路地裏を求め、旅に出た際は時間の許す限りローカル線で途中下車し、町を探検してみる。 琴線に触れるスポットは、もちろんどこにでもあるというわけではない。 市街地でありながら戦禍をまぬがれ、地上げをかわし、100円パーキングの波からも逃げ切った、ある意味地味で不便なコミュニティー。 そんな秘境を見つけるコツは、においである。 まず、どぶ川のにおい。路地裏には暗渠になっていないむき出しのどぶ川が欠かせない。成人雑誌が無造作に捨てられているまあまあ汚いどぶ川。さらに、どぶ川に沿って道がくねっているため方向感覚が失われやすく、時間的空間的迷子感を体感できる。 あと、ニスのにおい。こげ茶に塗られた板塀は路地裏の必須アイテム。黒光りの板塀は独特のにおいを放ち、足下にはコオロギの声。 そして、極めつけはソースと天かすが鉄板の上で焦げるにおい。そう、お好み焼きのにおい。 先日も南九州の寂しい町で見つけてしまった。 幅1メートルほどの小径に面した民家風のお好み焼き屋は入り口を開放していて、土間に座る大きな鉄板を覗くことができた。常連客らしきおっさんが1人、お好み焼きをつついていた。 よそ者を寄せ付けない独特の小汚さを放ちつつ、おいしいお好み焼き屋の要素を全て備えた路地裏の繁盛店。うまいんだろうな、きっと。 目的は路地裏につき、においだけごちそうさま。 いつも胸一杯になる路地裏探検がやめられないのである。
\\\\
|
column menu
|