937.苦味とストレス(2019.9.23掲載)
今年の残暑で売り上げを伸ばした食品はやはりビールであるが、意外なところでゴーヤの出荷も好調らしい。 かつては沖縄限定の郷土野菜だったゴーヤであるが、今や全生産量2万トンのうち60%が沖縄県以外。近所のスーパーや、ふつうの居酒屋でもよく見かけるようになった。 ゴーヤの特徴は、高いビタミンC含量とあの独特の苦味。 「モモルデシン」という怪しい名前の苦味物質に由来するゴーヤの味は、不思議と大人たちを引きつける。卵とじにしてかつお節をふりかけると、うま苦い感じのいいバランスになるのだ。 ところで、大人になるとなぜ苦いものが好きになるのか。 子供は、本来毒のマーカーである苦味のあるものを絶対口にしない。私自身ビールもゴーヤも苦いコーヒーも、心底好きになったのは30代になってからである。 この疑問の答えは15年前にストレス実験で解明されており、結論は「ストレスがたまると苦味が好きになる」ということだった。 実験で課したストレスは、画面上の52字×10行の紛らわしい文字列から指示された文字をカウントするという過酷な仕事。その後、被験者は特別に苦くしたチョコレートをおいしいと言った。 ストレスを感じると唾液に脂が分泌され、その脂の影響で苦味の感覚が鈍くなり嗜好が高まるのだという。どうりで過酷な会議の後のビールがうまいはずだ。 しかし、苦味を愛する大人の嗜好がストレスのおかげってのもなんだか情けない。ビールとゴーヤと苦いコーヒーが好きになった30代は、ストレスから逃れられなくなった30代だったのか。 どうせなら、世界一苦いデンマークのビール「ミッケラー1000IBU」を冷蔵庫に常備し、ストレスチェッカーにしてはどうか。 アサヒスーパードライの62倍の苦さというミッケラービール。美味しいと思ったなら、結構あぶない状態なのである。
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