944.別腹、覚醒、オレキシン(2019.11.11掲載)
両国で大相撲を堪能した後は、決まって錦糸町のちゃんこ料理店「琴ヶ梅」である。 私と同い年のオーナー、琴ヶ梅剛史氏のレシピはゴマ油のさじ加減が絶妙でとにかく美味しい。 「お相撲さんって毎日こんな美味しいちゃんこ食べてるの?」 「もう満腹で無理と思っても食べ続けるには、おいしいことが一番っす」 お相撲さんは食べることが仕事。 そのためにはとことん美味しさを追求し、「別腹誘因物質」という二つ名を持つ「オレキシン」を分泌させる必要があるのだ。 幾央大学の山本教授は、「甘いものは別腹」といわれる現象の核心がオレキシンであることを証明した。ラットに砂糖水を与えると脳内の視床下部でオレキシンが分泌され、胃の収縮を活発にして食道に近い部分が緩み、食べ物を受け入れる準備をするというのだ。 甘いものに限らず、オレキシンが出るおいしいちゃんこで常に別腹状態を作り強い力士をつくる。だから、勢いのある部屋のちゃんこはうまい。琴ヶ梅が稽古をつける錣山部屋のちゃんこもうまい。 ところで興味深いことに、オレキシンには別腹誘因作用だけでなく、ナルコレプシー症状を改善する覚醒作用もある。オレキシンが分泌されると食欲がわくと同時に、目が覚めるのだ。強くなりたい力士にとって、これほど強い味方はない。 花のサンパチ組と呼ばれた昭和38年生まれの琴ヶ梅氏。北勝海、小錦、寺尾というメジャーどころが同期であるが、迷走したあげく角界に泥を塗った北尾光司氏(元横綱双羽黒)も同い年。 おいしいちゃんこ鍋をふるまい、オレキシンの力で目を覚まそうとしたこともあったのではないか。 「北尾さん残念でしたね」との私の問いには、ただうつむくだけで答えてくれなかったのである。
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