958.セロリ(2020.2.24掲載)
「サキサキとセロリ噛みいてあどけなき汝を愛する理由はいらず」 食材が登場する短歌。 セロリは嫌いだが、佐佐木幸綱先生のこの作品は大好きである。 無防備かつ無邪気にセロリを食べる彼女の全存在を、ためらいなく愛しく思う男性の心象が見事に描かれている。確かに、愛することに理由はいらない。 山崎まさよしも、この短歌をヒントに「セロリ」をつくったのかな。 ところで、この歌の圧倒的な存在感は、冒頭の擬音語「サキサキ」によるところが大きい。「シャキシャキ」でも「サクサク」でも「シャリシャリ」でもない「サキサキ」。この、セロリにぴったりの擬音語を生み出した佐佐木先生の創造力は、すごい。 日本語は擬音語の宝庫である。だから、食事の時の擬音語を大まじめに調査した論文もある。タイトルは「性別・年齢別・地域別にみた日本語テクスチャー用語の認知状況」。テクスチャー用語とは、擬音語を含む食感を表現する単語。 445語のテクスチャー用語を調査したという論文の概要を紹介する。 男性に比べて女性の認知度が高い用語…ぽそぽそ、もそもそ、もさもさ、もったり、くたくた、ぼそぼそ、分離した、ぱらぱら、なめらか、ほっこり。 高齢者に比べて若年層で認知度が高い用語…ぷにぷに、シュワシュワ。 首都圏に比べて京阪神地区で認知度が高い用語…もろもろ、かすかす、にちゃにちゃ、ねばい。大阪のこてこて感が伝わってきた。 地道な研究だが、445語の中に「サキサキ」はなかった。ない言葉をつくるんだから、やっぱり佐佐木先生はすごい。 私にもつくってみたい擬音語がある。それは、蕎麦をすする音。そば粉の香りが鼻から抜け、軽い喉ごしとかつお節のだし感を引き連れる粋な音。「つるつる」はうどんの音だし、「ずるずる」だと少し品がない。 志ん朝師匠や小朝師匠が「時そば」で扇子を箸にしてすするあの威勢のいい音を4語で表現したい。 サキサキセロリを目標に、ざる蕎麦をすすりながら擬音語をひねる昼下がりなのである。
\\\\
|
column menu
|