968.吸い殻雀(2020.5.4掲載)
外出自粛の巣ごもりで暇を持て余し、家の掃除もやりつくしたんで周辺道路のごみ拾いをすることにした。 およそボランティアとは縁のない日々だったが、気持ちよく道路清掃をさせてもらった。そして、路上にタバコの吸い殻が多いことに驚いた。 タバコをやめて35年。ジョージア片手にタバコをポイ捨てしていた青春の蹉跌を懺悔するように、もはや死語に近い「火ばさみ」でせっせと吸い殻を拾い集めた。 町内をきれいにしたぞとプチ達成感に浸っていた矢先、すごい上手がいることを知った。メキシコのスズメが吸い殻を拾って巣づくりに活用しているというのだ。 メキシコのトゥラスカーラ自治大学の研究グループによると、スズメは拾った吸い殻から樹脂製のフィルターを取り出し、巣に織り込む。そうすると、フィルターに蓄積されたニコチンが天然の殺虫剤となって、巣やヒナを寄生虫などの有害な虫から守ってくれる。 そもそも、植物としてのタバコがニコチンを作り出すのはタバコの葉を食べる昆虫から身を守るためであり、スズメが再利用することも理にかなっている。いや、人間が利用した後だから再々利用か。 未使用のフィルターから作った巣には寄生虫が集まってくるらしいから、吸い殻を活用することに気づいた都会のスズメは頭がいい。 ただ、日本の喫煙人口(男性)は1966年の83.7%をピークに減少し、2018年で27.8%。今後は路上の吸い殻も貴重になってくる。じゃ、スズメは吸いたい盛りの青二才がいる高校の校庭を目指すか。いやいや高3男子の喫煙経験率も、2014年で13.2%と激減。しかも隠れて吸うから吸い殻は見つけにくい。 となると遠征するしかない。都道府県別喫煙率(男性)のベスト3を見ると、佐賀(37.5%)、青森(36.5%)、岩手(36.2%)…。 旅の絵かきが宿賃代わりに旅籠の屏風にスズメの絵を描き、それが朝になると飛び立つものだから評判になる「抜け雀」という古典落語がある。 巣ごもりついでに、スズメが吸い殻を求めて旅を打つ「吸い殻雀」てな感じの新作落語を書いてみようかと思った次第である。
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