972.いっぽんの麦(2020.6.1掲載)
巣ごもりで粉もんの販売が好調らしい。ならば、その粉の原料である麦にも光を当てるべきではないか。 詩人石原吉郎の「麦」という作品を紹介する。 いっぽんのその麦を すべて苛酷な日のための その証としなさい 植物であるまえに 炎であったから 穀物であるまえに 勇気であったから 上昇であるまえに 決意であったから そうしてなによりも 収穫であるまえに 祈りであったから 天のほかに ついに 指すものをもたぬ 無数の矢を つがえたままで ひきとめている 信じられないほどの しずかな茎を 風が耐える位置で 記憶しなさい この場合の麦は、小麦より大麦の方がぴったりはまる。 大麦の用途は、麦茶、ストロー、麦わら帽子…。詩的だし夏っぽい。 大麦と小麦はどちらもイネ科に属するが、分類上は全く別の植物。だから、大麦アレルギーはないが小麦アレルギーはある。大麦にグルテンはないが小麦にはたっぷり。大麦の粉ははったい粉で小麦の粉は小麦粉。 また、大麦小麦の大小は大きい小さいではなく、大麦がメジャーで小麦がマイナーという伝来当時の設定。ちなみに、大豆小豆の大小も同じ理由である。 くしくも6月1日は麦茶の日。緑茶やウーロン茶に押されっぱなしであるが、麦茶は江戸時代から親しまれてきた国民的飲料。もっと麦茶を飲もうではないか。 麦わら帽子と蝉しぐれに囲まれた幼き夏、ゲータレードもポカリスエットもなかったサッカー部合宿の青き夏、いつの時代も私たちのそばには香ばしい麦茶があったのだ。 とはいうものの、おっさんには麦茶よりビールと焼酎。これも大麦。 今年の夏は、石原吉郎先生の詩と大麦の力で乗り切る予定である。
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