「極道放浪記」
浅田次郎著 幻冬社アウトロー文庫 495円 本書は浅田次郎氏の作品である。「地下鉄に乗って」で吉川英治文学新人賞、「鉄道員」で直木賞を受賞した、あの「平成の泣かせ屋」浅田次郎氏である。ほか「蒼穹の昴」、「霞町物語」など、とにかく浅田氏の作品は泣ける。涙腺のこわしかたを知っている。 ところが、である。その浅田氏が若き日に、いわゆる「闇」の世界を生きていたというのである。浅田氏の仏様のような顔が浮かんだ。にわかには信じがたい。おそるおそる読み始めた。 す、すごい。民事と刑事の境界線をつなわたり。生死の境もつなわたり。とにかくおもしろす。40分あまりで読破してしまった。 各章のタイトルを見ただけでゾクゾクする。 「保険金サギのさらにウワマエをはねる奴」「赤坂二丁目豪華極道マンション」「いよいよ来た『浅田をぶっ殺せ』」「金持ちの骨のしゃぶり方、教えます」 レンタルビデオショップの極道コーナーを思わせるが、本書は東映Vシネマ「とられてたまるか!」シリーズの原作でもある。この手のアウトローものの人気は根強い。TV特番の「新宿警察24時間」シリーズも安定した視聴率が確保できるという。人は元来、犯罪者なのか。 浅田氏は言う、「人間はもういかんと思ったら最後、石にけつまずいても死ぬ。『殺られてたまるか』と一心に念じて生きようとすれば、存外、命まで取られることはない。わかりやすく金で換算するなら、たかだか10万円の借金で首をくくる人間もいるが、100億の負債を背負っても生き続ける人間もまたいるのである」。 なるほど、これは更正したヤンキーの昔話とはワケが違う。 あの浅田次郎氏が書いたのである。
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