「地下鉄の友」
泉 麻人 著 新潮文庫 320円 よくもまぁ、地下鉄のネタだけで百本のコラムを書いたものだ。もともとは、産経新聞の夕刊に毎日連載されていたコラムだから、毎日が締め切りだったわけである。これは凄い。この連載で、泉氏はコラムニストとしての地位を、さらに不動のものとしたのではないか。二百字五枚に命を懸けるという泉氏の真骨頂が、この中には凝縮されており、それでいて、その意気込みを感じさせない軽いタッチの文章なのである。 そう、コラムは軽くなくちゃいけない。下手に千字の中にメッセージを込めようとすると、どうしても濃くなってしまう。社説のような社会派コラムは、そういう硬派路線でもいいが、新聞社が外部の書き手に求めているのは、そんな重い内容の文章じゃない。軽くて存在感のある文章。わかっちゃいるけど、なかなかできないコラムのオキテなのだ。 話を元に戻すが、この「地下鉄の友」は、地下鉄という密室の中で人はどのような行動をとるのかという、安易な人間ウォッチングの話ではない。キヨスクの牛乳やおじさんの靴下。そして、都こんぶやキュロットスカートなどの、マニアックではあるが、心のどこかに引っかかっているモノを小道具としてちりばめた、いわば、超カルトな最大公約数ネタの話なのである。 だから、地下鉄のない、カントリーな地域の人間が読んでもかなり笑える。蛭子能収氏の、どこかもの悲しいイラストも笑える。 地下鉄という限定空間を素材にしながら、普遍的な人間の心理をコミカルに描く泉氏は、やはり天才だと思う。
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