「GO」
金城一紀著 講談社 定価1,400円 このコーナーで、これまでに二回ほど青春小説と呼ばれる本を紹介してきた。村上龍氏の「69」、山田詠美氏の「ぼくは勉強ができない」。どちらも痛快で、さわやかで、「大人」や「学校」に対する反発の相対化にひどく共感した。 本書は三冊目の青春小説。そして「在日」文学でもある。つまり、ここでのレジスタンスは学校でも大人でもなく、「差別」、「民族」、「イデオロギー」なのである。読後、これがボディーブローのように効いてきた。日本の若人よ、君らには民族について考えた夜があるのか。 しかし、昨年度下期の直木賞受賞に裏付けされた筆力は、そんなメタファーを痛快軽快なストーリィで隠してしまう。とにかくおもしろい。 在日韓国人である著者の投影ともいえる主人公「杉原」。これがメチャクチャにかっこいい。けんかがめっぽう強くて全戦全勝。時には殴って気絶させてしまったお巡りさんと仲良くなったり、水風船をミニパトにぶつけたり…。普通の高校生がそうするように、とにかくかっこよく生きようとする。そして、杉原の眼光に濡れた「桜井」という日本人の彼女ができる。デートのシーンもまたいい。 二人の間にはロミオとジュリエットのような葛藤があり、「韓国人は血が汚い」などと平気で言ってしまう父親の言葉も影を落とす。 しかし杉原は語る。 「国籍とか民族を根拠に差別する奴は、無知で弱くて可哀想な奴なんだ。だから、俺たちがいろいろなことを知って、強くなって、そいつらを許してやればいいんだよ」 もう一度言う。日本の若人よ、君らには民族について考えた夜があるのか。 歴史的禍根のこと、教科書のこと、差別のこと。いろいろとっつきにくい問題が多いかもしれない。これまで避けてきた部分ばかりかもしれない。しかし、いまの退廃的日本を変える力がコリアン・ジャパニーズにはある。そんな圧倒的パワーが伝わってくる一冊であった。 そして私は、「在日」という言葉の無意味さを痛感した。
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