「69(sixty nine)」
村上 龍著 集英社文庫 定価438円 時代は一九六九年。主人公は高校三年生の僕とその悪友たち。舞台は進学普通高校の佐世保北高…。 ん?どこか見覚えのあるストーリー。あぁ、あれだ、「風流物語だ」。 本書も、作者が高校時代に経験したおもしろくて危険で切ないエピソードから構成されているが、中身のスケールがすごい。 「好きな女の子のために高校をバリケード封鎖」「停学百十八日」「童貞を捨てるために博多に家出」…。爆発しそうなエネルギーいっぱいで、とにかく楽しい。おまけに甘酸っぱいシーンなんかもあったりして。 「キスしたことある?」 「うちは、キスしたことなか。キスしたことなかとに、ディランとかドノバンとか恋の歌ば好いとるとよ」 そして、風流物語の作者は思う、「こりゃ、とてもかなわん」と。 そんな挫折感から少しでも這い上がろうと、すがるような気持ちで共通項を探す。あった、あとがきにあった。 村上龍氏は語る。 「この本に登場するのはほとんど実在の人物ばかりだが、当時楽しんで生きていた人のことは良く、楽しんで生きていなかった人(教師や刑事やその他の大人たち、そして従順でダメな生徒たち)のことは徹底的に悪く書いた。楽しんで生きないのは罪なことだ。わたしは、高校時代にわたしを傷つけた教師のことを今でも忘れない」 うんうん。そうだそうだ。 じゃ、楽しんで生きていなかった大人たちをどうやって見返せばいい? 「唯一の復しゅうの方法は、彼らよりも楽しく生きることだと思う」 たった二ページのあとがきに涙したのは、これが初めてだった。
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