「少年H 上・下」
妹尾河童著 講談社文庫 各600円 全国の高校三年生諸君!次の一節を知っているか。 「家庭から金属をなくそう!一片の鉄が兵器、軍艦に変わって戦争に勝ち抜く力になるのだ」「胸の金ボタンは弾丸だ」 どちらも戦時下の新聞の見出しである。私も幼少の頃、祖父からこの金属回収運動の話をよく聞かされた。祖父は、剣道の防具を縁の下に隠したという。 君たちが「うざったい」と思うように、私も「じじいの苦労話」と聞き流していた祖父の語りであったが、本書を読んで、その背景がよくわかった。つまりは、「あの戦争はなんだったんだ」ということである。 「焼夷弾はバケツリレーで消せる」「国民の白兵戦は気迫で一人一殺」あげくに「白い下着をつけて蛸壺式防空壕に入り一枚の板の蓋をすれば、原子爆弾の被害から逃れられる」という政府の奇天烈な発表。 国民学校五年生の十一歳の女の子に、「欲しがりません勝つまでは」なる国民決意の標語(入選作)を書かせるまでに至ったあの戦争は、なんだったんだろう。 本書の主人公「少年H」こと妹尾肇もこの戦争に疑問を感じ続け、少年の目で事象を切り取り、その天真爛漫な笑いと涙のフィルターを通して時代を語っている。戦時下の労苦をここまで明るく伝えた書物を私は知らない。 受験勉強のために昭和史を省略してしまう君たち!ぜひ本書を読みたまえ。そして、焼夷弾から逃げ続けた人々の暮らしと、手動五発の三八式歩兵銃で三十連発M1カービン銃と戦ったわが国の英霊を思い、日本史のしめくくりとしてほしい。
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