「陛下」
久世光彦著 新潮文庫 定価476円 書店に行き、あまたある本の中から今宵の一冊を手にする。動機はいろいろ。 「帯タタキに乗せられて」、「新聞の書評欄を見て」、「本の商会に感動して!?」などなど。 本書を連れ帰った理由は、一にタイトル二に作者、三、四がなくて、五に表紙、である。 昭和天皇の御真影を右上に配したデザインに金木犀の花がちりばめられている。内容も表紙そのままに倒錯にして甘美。そして、作者、久世光彦氏はあの伝説的ドラマ「時間ですよ」、「ムー一族」、「寺内貫太郎一家」などを手がけた敏腕プロデューサー。 「陛下、金木犀の香りに包まれて、あなたに愛されたい…」 主人公の陸軍中尉、剣持梓は、幼い頃から繰り返し見る幻の中で、陛下への熱い思いを募らせてきた。青年将校たちは、カリスマ北一輝との交流を経て、「昭和維新」なる叛乱に身を投じ、二・二六事件という時代の渦に吸い込まれていく。 国体観念を純粋に突き詰め、陛下を愛し、大御心に沿わんとした青年将校の悲劇的結末が色街を舞台に展開する。これは、二・二六事件の外伝ともいうべき官能的恋愛小説ではないか。 書店で本書を手にした時の衝撃は、読後も止むことはなかった。
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