「日本フォーク私的大全」
なぎら健壱 著 筑摩書房 1,900円 NHKの「おかあさんと一緒」のオサムお兄さんは、なぎら健壱とコンビを組むバリバリのフォークシンガーだった。 三浦友和氏は、初期のRCサクセションでボンゴを叩いていた。 チューリップ結成のためにメンバーが出て行ってしまい、活動ができなくなったバンドの寄せ集めでできたのが海援隊である。そして、その海援隊はデビュー当時、なぎら健壱の前座をしていた。 こんな感じで、知る人ぞ知る衝撃の事実をさりげなく小出しにして、文章は淡々と進む。NHKのフォーク特集で見せる、なぎら氏の熱い「フォークおたく」ぶりからは想像もつかないほどの冷静な文章である。 しかし、その内容はすこぶる濃い。 日本が動いていた六〇年代。新しい時代を予感させた七〇年代。これらすべてのシーンに絡んできたフォークソングとフォークシンガーの鼓動が、実にリアルに聞こえてくる。安保闘争も、ベトナム戦争もない今だからこそ、メッセージフォークのパワーにすがることが必要なのかもしれない。 とにかく、岡林信康、泉谷しげる、かぐや姫、井上陽水、吉田拓郎などのメジャーな顔ぶれから、早川義夫、高田渡、加川良、西岡たかし、遠藤賢司などのマニアックものまで、フォークファンが泣いて喜ぶネタか贅沢に盛り込まれているのだ。 そして、彼らの息吹を生で感じてきたなぎら氏だからこそ書ける迫真の描写に、読者はしばし時代を超える。いや、時代を超えたのではなく、日本人が普遍的に持ち続けている魂のようなものが、フォークソングという触媒によってあぶり出されているだけなのかもしれない。 まぁ、そんなことはどうでもいい。寒い夜はLP盤のノイズを肴に、熱燗徳利の首を摘んでみよう。
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