「歴代天皇百話」
林 陸朗監修 立風書房 1,300円 歴史を学ぶ意味はどこにあるのか。遺跡を発掘して、それが社会にどう貢献できるのか。歴史学者がときどき浴びる質問らしい。が、これは日本人として愚問である。例えば考えてみてほしい。自分の生い立ちを知らない人間はほとんどいないはずであり、大半の人が幼少の映像をアルバムにとどめていると思う。個の存在としての生い立ち同様、国の歴史は、国家そのものの存在に帰納するのである。 そういう意味で、本書は国の成り立ちとしての歴史書であり、時代を遡るための皇室史なのである。 歴史学の手法としては、他に生活史、戦闘史、農耕史などさまざまな教材があるが、質、量の両面において皇室史に勝るものはない。もちろん、歴代天皇の陵墓は宮内庁の管理下にあり、その全貌を知ることはできないが、二千年もの間、時代の波に揉まれながらもこの国土に君臨して現在に至っている万世一系の天皇を抜きにして、日本の歴史を語ることはできないであろう。 律令制、大和朝廷、大化の改新、摂関政治・・・。退屈な授業を賑わせていた懐かしい単語をちりばめ、オムニバススタイルで本書は続く。初代神武天皇から百二十四代昭和天皇まで、しかし、ここでは退屈しない。 神武天皇と、太平洋戦争時のスローガン、「撃ちてし止まん」の関係は? 実在した初めての天皇とされる第十代崇神天皇は、卑弥呼の弟か? 天皇家のルーツは大陸からの騎馬民族か? などの古代史の謎から、さまざまにその存在を問われてきた昭和天皇の近代史まで、あまたのエピソードを網羅して飽きさせない。 戦争責任、君が代、日の丸問題など、とかくネガティブな論争の矢面に立たされがちな天皇と天皇制であるが、肩の力を抜いて、自分のアルバムをめくるように、ひとつの歴史書として読んでみよう。 ここには純粋な私たちの国がある。
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