「人間失格」
太宰 治 著 集英社文庫 270円 おそらくは、これまで紹介した本の中で最も多くの人に読まれ、最も他の芸術作品に影響を及ぼしたのが、この「人間失格」ではないだろうか。 野島伸司プロデュースによるTV番組「人間・失格」や、井上ひさし脚本による演劇「人間合格」など、名うての作家がモチーフとして利用している。そして、「はしがき」の『私は、その男の写真を三葉、見たことがある。』や、「第一の手記」の『恥の多い生涯を送ってきました。』などの書き出しも多くの場面で語られ、引用されてきた。 内容は、まさに太宰治の陰惨で自虐的な半生そのままである。無邪気さを装って大人たちの顔色をうかがっていた少年時代。次々と女性と関わりながら酒と薬におぼれた青年時代。そして、それらを通して常に発せられたメッセージは「自己批判」という内へのベクトルと、「世間」、「人間」、「生活」とは何かという問いであった。 読後、ふと思ったことがある。「ああ、これは尾崎豊の生き方に似ている」。尾崎豊もストイックに自分を追い詰め、「群衆」、「愛」、「自由」を問い続け、そして二十六年の生涯を閉じた。われわれ凡人の理解を超えた天才の営みとは、こういうものなのかと思う。 太宰治は、昭和二十三年の三月から五月にかけて本書を執筆し、六月十三日に自らの命を絶った。桜桃忌。「人間失格」は太宰治の遺書でもあった。
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